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大阪地方裁判所 平成10年(わ)2406号 決定 1998年9月30日

被告人 S・J(昭和55.1.21生)

主文

本件を大阪家庭裁判所に移送する。

理由

本件公訴事実は、

「被告人は、Aと共謀の上

第1  通行中に認めたB(当時20歳)から金品を強取しようと企て、平成10年2月19日午後10時10分ころから翌2月20日午前5時ころまでの間、大阪府東大阪市○○町×番××号付近路上、同市○△町×丁目×番×号○○店東側路上及び同町×丁目××番××号所在の○△寮×-××号室の右B方において、同人に対し、こもごも「ナイフ持っているんや。変なことしたら刺すぞ。」、「殺すぞ。」、「金いるんや、出せ。」、「金がまだいるんや。」、「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」、「金どこや。出さなかったらしばくぞ。」、「警察に言えば仲間が仕返しする。」などと申し向けた上、こもごも同人の顔面等を手拳で殴打、足蹴にするなどの暴行を加えて、その反抗を抑圧し、右各路上及び同人方において、同人からその所有に係る現金2000円及び株式会社○○銀行□□支店発行の同人名義のキャッシュカード等約68点(時価合計12万2500円相当)を強取し、その際、右各暴行により、同人に完治に3日間を要する右上顎中切歯歯牙破折等の傷害を負わせ

第2  同年2月20日午後零時48分ころ、同市□○×番所在の株式会社○△銀行△□支店において、前記強取に係るキャッシュカードを使用して、同所に設置された現金自動預払機から、同支店長C管理に係る現金20万円を引き出し窃取し

第3  前記Bから更に金品を強取しようと企て、同年3月11日午前2時30分ころから同日午前3時ころまでの間、前記B方において、同人に対し、はさみを突き付けて「逆らつたら刺すぞ。」などと申し向けた上、こもごも同人の顔面等を手拳で殴打するなどの暴行を加えて、その反抗を抑圧し、同人からその所有に係る現金1万9600円及び株式会社○○銀行□□支店発行の同人名義のキャツシユカード等7点(時価合計3万3000円相当)を強取し

第4  同日午前9時3分ころ、同市○□×丁目×番×号所在の株式会社□□銀行□□支店において、前記第3の犯行により強取したキヤツシユカードを使用して、同所に設置された現金自動預払機から、同支店長D管理に係る現金10万円を引き出し窃取し

第5  通行中に認めたE(当時22歳)から金品を強取しようと企て、平成10年3月18日午前1時ころ、大阪府東大阪市△○×丁目×番×号所在のマンション○○前路上において、同人に因縁を付けて、右マンション××号室の同人方に上がり込み、その玄関戸を施錠した上、そのころから同日午前9時ころまでの間、同所において、同人に対し、こもごも「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」「金目のものないんか。」、「金あったらいまのうちに出しとけ。」などと申し向け、同人の両腕及び両手拳にガムテープを巻き付け、さらに同人の両眼及び口に右テープを貼り、プラスチック製肩叩きで頭部等を多数回殴打するなどの暴行、脅迫を加えて、その反抗を抑圧し、同人所有の現金4000円及び時計等32点(時価合計6万8500円相当)を強取し、さらに同人を同市○□×丁目×番××号○○ビル×階所在の□□株式会社△△支店に連行し、同店内において金銭消費貸借包括契約を締結させ、同日午後零時5分ころ、同所において、同人から□□カード1枚(融資限度額20万円)を強取した上、同人を同人方に連行し、同日午後零時20分ころ、同所において、同人に対し、「逃げたら分かっとるやろな。」などと申し向けつつ、カッターナイフ(刃体の長さ約6.2センチメートル)でその右膝を切り付け、さらに同人を前記□□株式会社△△支店前路上に連行し、同日午後1時3分ころ、被告人が、右カードを使用して同店に設置されている現金自動借入返済機から、現金20万円を引き出してこれを強取し、その際、右各暴行により、同人に加療約10日間を要する頭部及び前額部打撲傷、右膝切創の傷害を負わせ

たものである。」

というものであって、右各事実は、後記の点を除き、当公判廷で取り調べた関係各証拠により認められ、被告人の本件第1の所為は、刑法60条、240条前段に、第2及び第4の所為は、同法60条、235条に、第3の所為は、同法60条、236条1項に、第5の所為は、同法60条、240条前段にそれぞれ該当する(なお、第5の所為のうち、□□株式会社△△支店の現金自動借入返済機から現金20万円を引き出した点については、窃盗罪(刑法60条、235条)を構成し、その余の第5の所為についての強盗傷人罪とは併合罪の関係に立つと判断されるが、当裁判所としては、主文のとおり、本件を大阪家庭裁判所へ移送する決定をするので、あえて訴因変更等の手続をとることはしなかった。)。

そこで、以下、一件記録及び当公判廷の事実審理の結果に基づき、被告人の処遇について検討する。被告人は、平成9年6月に、中等少年院を仮退院したが、平成10年1月ころ、少年院に入る前にも付き合いがあったA(当時21歳)の誘いに乗って、相手に因縁を付け、ときには暴力を振って現金等を奪う、いわゆるカツアゲをするようになり、本件各犯行もその一環として敢行されたものである。本件各犯行の動機は、いずれも遊興費等の金員欲しさという極めて自己中心的なものである。犯行態様についてみても、被告人らは、力が弱そうで抵抗されそうにない被害者をねらって、これに因縁を付け、その居室まで押しかけて、長時間にわたって居座り、全く無抵抗の被害者の顔面、頭部等を手拳や肩叩きなどで殴打する等の暴行、脅迫を加えて現金等を奪い、さらに、被害者Bに対しては、奪つたキャッシュカードを使用して預金を引き出し、後日、再び被害者宅に押しかけて、一方的に暴行、脅迫を加え、重ねて現金等を奪い、奪つたキャッシュカードを使用して預金を引き出し、また、被害者Eに対しては、同人の膝をカッターナイフで切り付けるなどし、所持していた現金が少ないとみるや、消費者金融で金銭消費貸借包括契約を締結させて、発行されたカードを強取するなどしており、いずれも反社会的で、被害者らの人格を無視した悪質な犯行であって、その加えた暴行も危険性の高いものである。被告人は、共犯者のAにカツアゲに行くことを持ちかけ、自らも暴行、脅迫を加え、積極的に関与しており、Aに比し被告人が自ら加えた暴行の程度が幾分軽いものがあるとはいえ、被告人が本件各犯行で果たした役割が特に従属的であったということはできない。また、被害者Bの関係では、被害額は合計約47万7100円に及び、同人に対して完治3日間を要する歯牙破損等の傷害を負わせ、被害者Eの関係でも、被害額は合計約27万2500円で、同人に対して加療約10日間を要する傷害を負わせており、その惹起した結果も重大である。したがって、以上を勘案すると、罪質は重大であって、被告人の責任も相当に重いというべきである。

そして、被告人は、いずれも窃盗の非行により、4回の補導、逮捕歴があり、一般短期保護観察(平成8年6月3日)及び中等少年院送致(一般短期処遇課程、同年12月6日)の保護処分に付されるなど重ねて保護的措置、矯正教育を受けてきたにもかかわらず、これらが奏効せずに本件犯行に至っていること、また、今回はこれまでの窃盗から強行犯である強盗傷人等にまで至っていることなどからすれば、非行が進行しているのではないかとも疑われる。そうだとすると、この際、被告人に対しては、成人と同様に厳しく刑事責任を問うべきようにも思われる。

しかしながら、被告人は、現在18歳8か月という若年であるから、成人と同様の刑事責任を追及することには慎重でなければならない。そこで、まず、被告人の本件各犯行における責任の程度について更に検討すると、被告人はAから度重なる誘いを受けてカツアゲを繰り返すようになつたもので、最初にカツアゲを誘われたときには断わっていたのであり、何のためらいもなく犯行に関わるようになったものではないこと、本件犯行においても、Aが肩叩きでEの頭を殴打し続けるのに対しては心配して制止しようとしていること、カッターナイフでEの膝を切り付けたのはAであったこと、第4の犯行で窃取した現金については、Aは被告人を欺いて一人占めしていることなどに照らせば、被告人の責任は、年長の共犯者Aのそれに比べ、やはり軽いということができる。そして、特に重要な点として、本件の検察官送致決定がされ、起訴された後、被告人は、被害者に謝罪の手紙を出し、また、弁護人を通じ、被害者Bに対して70万円、被害者Eに対して60万円が支払われて、被害者両名との間で示談が成立し、被害者Bからは嘆願書も提出され、被告人に対する宥恕が得られている。また、被告人は、犯行後、自ら警察に出頭して本件各犯行を供述したものであって、本件全事実について、自首が成立していると認められる。被告人は、自首して逮捕された後、約6か月にわたって身柄を拘束されたが、その間、捜査官の取調べ、少年鑑別所における資質鑑別、家庭裁判所における調査、審判、さらに刑事手続という過程を経て、その罪責が厳しく糾弾され、相応の教育的効果がもたらされたと考えられる。被告人は、これらの経験を通して、自己の罪責の重大性を自覚し、内省を深めたことが窺われ、当公判廷で示された被告人の反省悔悟の情と更正意欲も真摯なものであると認められる。ところで、少年鑑別所の鑑別結果は、被告人は、獲得欲求や支配欲求を抑圧しているため、人格の統合が不十分で、安定した行動を続けることができにくい傾向があり、周囲に流されやすく、抑制力に乏しいなど情緒面で未成熟な欠陥があるとの趣旨の指摘をしつつも、被告人の立ち直りのためには長期間の個別的・治療的な矯正教育によって人格の統合を高めさせ自己統制力を強化していく必要があり、収容保護(長期処遇)が相当としており、また、家庭裁判所調査官の意見によっても、長期の少年院に送致し、カウンセリング的な方法により少年の内面の問題性の改善を図ることも一つの選択肢であるとして、被告人に矯正教育を施すことが不可能であるとはしていない。被告人は、少年院における被告人の処遇経過において、一定程度の改善の兆しを見せていた上、仮退院後、一応は本件逮捕当時に至るまで真面目に稼働を継続してきたことなどの事情に照らしても、その非行性は、未だ人格に固着化し、あるいは、習癖化して矯正保護の限界を超えるに至っているとまではいえない。その他、被告人は、少年院での指導を受けた経験があるものの、短期収容であり長期間収容されたことはないこと、被告人の両親においても被告人の保護、指導につき協力的態度が期待できること、逮捕当時まで被告人が板金塗装工として働いていた稼働先の雇い主は、被告人が自首する際の相談にも乗り、被告人との間に信頼関係が認められるが、当公判廷で、証人として社会復帰後の雇用と指導監督を約していることなどに照らしても、被告人にはなお保護処分による矯正改善に期待し得る状況にあるものということができる。なお、本件罪名、罪質に鑑みれば、被告人に刑事処分を科する場合、相当長期間の実刑は免れ得ないと考えられるところ、年齢18歳に過ぎず知的にも劣る被告人に対し、長期の実刑を科すことは被告人の人格形成上の悪影響が懸念され、かえって被告人の改善更生に障害となるおそれも否定できない。

そこで、以上の諸般の事情を勘案して検討すると、被告人の責任には軽視しがたいものがあることや成人である共犯者Aとの均衡などを考慮したとしても、本件では、検察官送致決定後に被害弁償、被告人の反省の深まり等事情の変更があり、保護処分による改善可能性も認められることなどからして、被告人を矯正、更生させるためには、このまま被告人に刑事処分を科すよりも、今一度、家庭裁判所において、更なる調査、審判を経て、被告人を保護処分に付し、適正な教育的処遇を受けさせるのが相当であり、そのようにすることが、保護処分を優先させて少年の健全育成を期する少年法の理念に合致すると考えられる。

よって、少年法55条を適用して、本件を大阪家庭裁判所に移送し、訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本芳希 裁判官 福吉貞人 佐藤克則)

〔参考〕 受移送審(大阪家 平10(少)4042号 平10.10.9決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、Aと共謀の上、

第1 通行中に認めたB(当時20歳)から金品を強取しようと企て、平成10年2月19日午後10時10分ころから翌2月20日午前5時ころまでの間、大阪府東大阪市○○町×番××号付近路上、同市○△町×丁目×番×号○○店東側路上及び同市○△町×丁目××番××号所在の○△寮×-××号室のB方において、同人に対し、こもごも「ナイフ持っているんや。変なことしたら刺すぞ。」「殺すぞ。」「金いるんや、出せ。」「金がまだいるんや。」「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」「金どこや。出さなかったらしばくぞ。」「警察に言えば仲間が仕返しする。」などと申し向け、こもごも同人の顔面等を手拳で殴打、足蹴にするなどの暴行、脅迫を加えて、その反抗を抑圧し、前記各路上及び同人方において、同人からその所有に係る現金2000円及び株式会社○○銀行□□支店発行の同人名義のキャッシュカード等約68点(時価合計12万2500円相当)を強取し、その際、前記各暴行により、同人に完治に3日間を要する右上顎中切歯歯牙破折等の傷害を負わせ

第2 同年2月20日午後零時48分ころ、同市□○×番所在の株式会社○△銀行△□支店において、前記強取に係るキャッシュカードを使用して、同所に設置された現金自動預払機から、同支店長C管理に係る現金20万円を引き出し窃取し

第3 Bから更に金品を強取しようと企て、同年3月11日午前2時30分ころから同日午前3時ころまでの間、前記B方において、同人に対し、はさみを突きつけて「逆らったら刺すぞ。」などと申し向け、こもごも同人の顔面等を手拳で殴打するなどの暴行、脅迫を加えて、その反抗を抑圧し、同人からその所有に係る現金1万9600円及び株式会社○○銀行□□支店発行の同人名義のキャッシュカード等7点(時価合計3万3000円相当)を強取し

第4 同日午前9時3分ころ、同市○□×丁目×番×号所在の株式会社□□銀行□□支店において、前記第3の犯行により強取したキャッシュカードを使用して、同所に設置された現金自動預払機から、同支店長D管理に係る現金10万円を引き出し窃取し

第5 通行中に認めたE(当時22歳)から金品を強取しようと企て、同年3月18日午前1時ころ、同市△○×丁目×番×号所在のマンション○○前路上において、同人に因縁をつけて、同マンション××号室の同人方に上がり込み、その玄関戸を施錠した上、そのころから同日午前9時ころまでの間、同所において、同人に対し、こもごも「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」「金目のものないんか。」「金あったら今のうちに出しとけ。」などと申し向け、同人の両腕及び両手拳にガムテープを巻き付け、更に同人の両眼及び口にガムテープを貼り、プラスチック製肩たたきで頭部等を多数回殴打するなどの暴行、脅迫を加えて、その反抗を抑圧し、同人からその所有に係る現金4000円及び時計等32点(時価合計6万8500円相当)を強取し、更に同人を同市○□×丁目×番××号所在の○○ビル×階□□株式会社△△支店に連行し、同店内において金銭消費貸借包括契約を締結させ、同日午後零時5分ころ、同所において、同人から□□カード1枚(融資限度額20万円)を強取した上、同人を同人方に連行し、同日午後零時20分ころ、同所において、同人に対し、「逃げたらわかっととるやろな。」などと申し向けつつ、カッターナイフ(刃体の長さ約6.2センチメートル)でその右膝を切りつけ、それら各暴行により、同人に加療約10日間を要する頭部及び前額部打撲傷、右膝切創の傷害を負わせ

第6 同日午後1時3分ころ、前記□□株式会社△△支店において、前記強取に係る□□カードを少年が使用して、同所に設置された現金自動借入返済機から、同支店長F管理に係る現金20万円を引き出し窃取し

たものである。

(法令の適用)

第1、第5    いずれも刑法60条、240条前段

第2、第4、第6 いずれも刑法60条、235条

第3       刑法60条、236条1項

(処遇の理由)

少年は、当裁判所において、平成8年6月に窃盗保護事件につき一般短期保護観察に付され、同年12月には窃盗保護事件につき中等少年院(一般短期処遇)に送致されて、平成9年6月に仮退院をし、以後も保護観察が続いていたにもかかわらず、それらの指導を生かすことができずに、前記のとおり成人共犯者と共に危険・反社会的で被害者らの人格を無視した悪質な非行に及んだものである。本件非行については、当裁判所は非行の内容、少年の年齢、保護処分歴、反省状況等の諸事情を考慮し一旦は刑事処分相当として少年法20条により検察官送致の決定をしたが、その後の刑事裁判の審理の結果、地方裁判所から保護処分相当として少年法55条による移送を受け、改めて検討したところ、刑事裁判の審理の過程で被害弁償がなされたことなどを通して少年が自分の行為の責任をよく認識することができその反省の度合いが顕著に深まっているようすが窺われ、更生意欲も真摯なものと認められるため、十分な矯正教育を施せば少年を立ち直らせることが可能であると期待できるので、少年を中等少年院に収容することによりその健全な育成を期することとした。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 岡田健彦)

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